2001年、カナダのトロント映画祭において、再び世界の映画界に大きな反響をまき起こした陳凱歌(チェン・カイコー)監督の最新作、『北京バイオリン/Together』が上演されました。
物語はある13歳の少年を巡って展開されます。小さい時からずっとバイオリンを弾いてきた劉小春は、13歳の時にすでにいくつかの演奏会で賞をもらうような天才少年でした。
この無口で敏感な少年にとって、楽器は彼の喜怒哀楽を表現する口のようなものでした。
またこの楽器は同時に、一度も会ったことのない母親との最も貴重な絆でもあり、彼は自分の母親がすべての霊感の源だと考えていました。
劉小春の父は、ごく普通の料理人です。彼は息子のことを誇りに思い、息子に高い期待と純粋な野心を託していました。
とはいえ、料理人である父は、地方の大会で賞を獲得したからといって名演奏家になれる訳ではない、大都会の北京で一流音楽家による特訓を受けなければ、一流にはなれないということを充分に分っていました。
親子は希望を胸に北京への旅に出ます。父は一生懸命に仕事をして稼いだお金の殆どを、劉小春の高いレッスン代に充てました。
一方息子は、伝統なやり方に拘らない江先生の指導によって、音楽センスを大きく花開かせて行きます。
その後、父が偶然に出会った余教授が、劉小春の二人目の先生となることで、これまでにない厳しい訓練が劉小春に課せられます。
紆余曲折を経て、運命の全国大会出場にこぎつけた劉小春ですが、彼の今後の人生を大きく左右する、ある秘密が解かれる時もまた同時に迫ってきていることを、知る術はありませんでした――。
陳凱歌(チェン・カイコー)監督の『北京バイオリン/Together』は、彼の従来の作品(例えば『始皇帝暗殺』)のような歴史性と雄大さを重視したものではなく、個人の感情を描く形の映画となっています。
ユーモアと温情たっぷりの映画であるとはいえ、その裏側に中国現代社会に対する鋭い批判的な視線が隠されていることから、どのような作品であっても、陳監督の優れた表現手法は不変であることが解ります。
著名な映画評論家のKirk Honeycuttは、「陳監督の『北京バイオリン/Together』は、“映画の父”と称されたD.W.Griffithと酷似した味を出した。」と高く評価しています。
2002年に開催された「サン・セバスチャン国際映画祭」では最優秀監督賞/最優秀主演男優賞を受賞しています。
昨年、日中国交正常化30周年を記念して開催された「中国映画祭」でも上映された本作品は、4月下旬より渋谷Bunkamuraル・シネマをはじめとした全国で、順次公開される予定です。