第53回のベルリン映画祭で、チャン・イーモウの『英雄/ヒーロー』を打ち破って銀熊賞を受賞した、中・独共同制作の作品があります。その作品、『盲井/Blind Shaft』は一体どんな映画なのでしょうか?
中国国内だけでなく、海外においても大きな反響を呼んだこの映画は、監督の李揚(リー・ヤン)氏をはじめ、主演男優の李易祥(リー・イーシャン)氏も、今まで世間の人にあまり認知されておらず、そのせいか余計に人々の注目を浴びています。
映画『盲井/Blind Shaft』は、人間性を奥深くまで描写した作品です。原作は、2002年に老舎文学賞を受賞した劉慶邦(リュー・チンバン)氏の小説、『神木』です。
物語の舞台は、とある石炭鉱山です。この辺鄙な鉱山に住みつき、暇を持て余していた二人の男が、出稼ぎに来た人を狙って詐欺を行っていました。
その手法は、まず標的となる人を、「鉱山には良い仕事がある」と言って騙し、鉱山に連れてきます。そして真っ暗な石炭坑内でその人を殺してしまうのです。その後、殺害現場を事故が起きたように偽装してから、被害者の家族を装って鉱山主に賠償を請求するのです。
二人はつぎつぎと人を殺害していき、その中でますます人間としての良心を失っていきます。しかし、ある日、彼らはある男の子を標的にするのですが、詐欺師の一人は、とっくに失ってしまった良心が再び蘇ったようで、人に危害を加える邪悪な心と、男の子を護ろうとする良心の間で、ジレンマに陥ってしまいます。
さんざん悩んだあげく、この詐欺師はとうとう深い石炭坑内で自殺してしまうのです――。
この作品はそのタイトルも表しているように、ブラインド(暗闇)となっている炭坑内で演出される、ブラインド(自分を見失う)に陥った人間性を描写している点が、作品にえもいわれぬ深みを与えているのです。
余談となりますが、『盲井/Blind Shaft』を撮影したときに使用された炭坑は、地理的条件の厳しい個人経営のところであったため、撮影班が地下で20数時間撮影をして地上に上がってきた後、2時間もたたないうちに利用したトンネルが崩落してしまった、というエピソードもあるようです。
そのような大変厳しい状況の中で、このように素晴らしい映画を世に送り出したスタッフには、感心させられます。このようなエピソードからも、一見の価値があることを強く感じるでしょう。
2003年3月に映画『盲井/Blind Shaft』は、ベルリン映画祭に続いてフランスのドーヴィル・アジア映画祭で最優秀作品賞他5つの賞を獲得しました。
現時点では、この映画の日本での上映は未定ですが、このような深みのある優秀な作品が、一日も早く日本の観客に鑑賞されるようになることを強く願ってやみません。