2004年、「手機」(手機とは携帯電話のこと)という映画が、毎年の「賀歳片」(お正月映画)として上演された。
この映画の監督は馮小剛氏(フォン・ショウカン)で、主役は人気俳優の葛優(カツ・ユウ)である。
近年、中国では携帯が爆発的に普及してきた。携帯を使うことは完全に個人の自由であるが、プライバシーに関する、様々な微妙なトラブルが起こってきている。
さて、とりあえず、映画の物語を紹介しよう。
厳守一は、「有一説一」(何かあれば、すぐに言って)という人気テレビ番組(悩み相談番組)の司会者で、誠実な人柄の人と思われている。
費墨は、その番組の責任者で、もうすぐ定年になる親切な有徳者である。しかし、この社会道徳の代表者と見なされている二人が、実際には浮気をしているのだ。
まず厳守一は、武月という愛人がおり、電話ができない時、メールで連絡しあう。だから、彼の携帯は、いつも神秘的な着信メロディが鳴り、その都度、妻が疑わないように、慎重に嘘をつく。
ある日、厳守一は携帯を家に忘れてきてしまった。費墨と一緒に出勤している途中、思い出して心配したが、時間がないので、取りに戻れなかった。
もちろん、携帯は何回か鳴った。妊娠している妻は、最初気にしなかったが、最後にとうとう出てしまった。電話の相手は何も言わなかった。妻は普段の夫の冷淡さと結びつけ、真相がすぐに分かってしまった。結局最後、二人は離婚した。
厳守一は離婚後、沈雪という発音の先生と付き合い婚約した。しかし武月とはまだ関係を続けていた。厳守一は前の経験をふまえ、携帯の着信はマナーモードに設定した。
ある日、武月は、二人の情事を録画して、厳守一に替わって、その番組の担当者になりたいと脅した。厳守一がトイレで、武月と携帯で相談している時、ドアの外に立っている沈雪にその話を聞かれ、またしても浮気がばれてしまった。二人は別れ、武月は、厳守一にかわって司会者の座を手に入れた。
厳守一の上司でもある費墨はいつも、厳守一に「誠実でありなさい」と指導していた。にもかかわらず、厳守一が二度目の浮気をしているのと同時に、費墨も、とある美学の研究生と付き合っていた。彼の妻は、電話局で彼の携帯の通信記録を調べて、疑惑を抱いた。
ある日、費墨は携帯の電池が切れたまま愛人とホテルに行った。妻が彼を探して電話をかけたが、つながらない。妻は仕方なく厳守一に電話した。厳守一は、「いま、会議中だから」と言ったが、帰宅した費墨に訳を聞くと、別の理由だと言った。
結局、費墨は浮気がばれて居づらくなり、とある東ヨーロッパの小さな国に行って、中国語を教える仕事についた。厳守一は精神病を患い、携帯に対して、強い恐怖感を持つようになってしまった。
一番面白いのは、この映画が公開されると、電話局に通話記録を調べに行く人が非常に増えてしまったことだ。夫たちは、本当に会議をしているけど、妻に疑われるので、絶対会議していると言えない。
現代中国の都市の中で、物質生活は向上したが、人と人との間に、淡白や不関心や猜疑などが生じ、精神生活が苦しくなりつつあるようだ。